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『週刊がん もっといい日』編集部(株式会社日本医療情報出版)
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週刊がん もっといい日

ピロリ菌の早期発見・早期除菌による胃がん予防キャンペーン

連載第1回
(06.12.15)
連載第2回
(07.1.19)
連載第3回
(07.2.16)
連載第4回
(07.3.16)
連載第5回
(07.4.20)
連載第6回
(07.5.18)
連載第7回
(07.6.15)
連載第8回
(07.7.20)
連載第9回
(07.8.24)
最終回
(07.10.12)


胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と除菌による胃がん予防の可能性』

日本人に多い胃がん。その発生要因はさまざまですが、近年、胃がんの罹患にヘリコバクター・ピロリ菌が関与していることが明らかにされる一方、ピロリ菌の早期発見と除菌の必要性が指摘されています。では、どのようにしたら胃がんの発生リスクの高いといわれ
るピロリ菌の存在を突き止め、胃がんを予防することができるのでしょうか。話題を追ってシリーズでは、ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と除菌による胃がん予防の可能性について紹介していくことにします。第1回目は、『胃がんとヘリコバクター・ピロリ菌の関係』を明らかにした厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の研究報告です。

ピロリ菌感染者は感染していない人に比べ胃がんになる危険性が
5倍以上〜大規模疫学調査で示された胃がんとピロリ菌の関係


第1回
『胃がんとヘリコバクター・ピロリ菌の関係―厚生労働省研究班
(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の研究報告から』

胃がんの原因の一つとされているヘリコバクター・ピロリ菌。しかし実際に、ピロリ菌が胃がん発生にどの程度関与しているのか、どのような条件でどれくらいリスクが高くなるかなど、詳しいことはあまりよく分かっていなかった。そんななか、国立がんセンターの津金昌一郎01部長を主任研究者とする研究班が、保存血液を用いて、ヘリコバクター・ピロリ抗体(HpAb)などと胃がんリスクとの関係を調べた結果、ピロリ菌感染者の胃がんリスクは、非感染者の5.1倍になることが分かった。


●胃がんの発生について15年間の追跡データ(4万人)を用いて行われた

 この研究は、1990年に開始された、「多目的コホート研究」と呼ばれる、全国14万人を20年追跡調査する計画の大規模長期疫学研究のなかで、血液を提供してくれた40〜69歳の男女約4万人(全国10保健所管内)を、胃がんの発生について約15年にわたり追跡したデータを用いて行われたものだ。
一般住民を対象とした大規模疫学調査の結果として、胃がんとピロリ菌の関係を探っていく上で大きな足掛かりとなる研究といえる。研究結果は、医学専門誌や日本癌学会で発表された。
追跡期間中に胃がんが発生した512人に対して、胃がんにならなかった人から、年齢・性別・居住地域・採血時の条件などをマッチさせた人を1:1になるように選び、HpAb陽性グループと陰性グループなどで、他の胃がん関連リスク要因の影響をできるだけ取り除いて、胃がんリスクの比較分析を行っている(分析対象は抗体測定に成功した合計1,022人)。
 研究班は、この方法の特徴として、「がんになった人の、がんになる前の血液を用いた研究」ということを挙げている。このような、一般住民を対象とした前向きの研究計画では、胃がんになった後の血液を用いた病院ベースの症例対象研究などに比べ、より確実なリスクを知ることができるという強みがある。

●胃がんリスクとの関連性について

 胃がんリスクとの関連性を調べた血液の検査項目は、次の三つ。
1.ヘリコバクター・ピロリ抗体(HpAb)
  ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる。

2.CagA抗体(CagA)
  胃がんの前がん病変である萎縮性胃炎が進むと、ピロリ菌は胃のなかにすめなくなり、やがて抗体も検出されなくなる。CagAは、ピロリ菌の病原性を決めるタンパク質の一つで、このタンパク質の遺伝子をもつピロリ菌は毒素が強く、胃炎などを起しやすくさせる。日本人が感染している多くは、このタイプ。HpAb陰性でも、CagA陽性であった人は、症状が進んだためにHpAbが消えたものと考えられる。

3.ペプシノーゲン(PG)
  萎縮性胃炎の度合いを示し、診断に用いられるマーカー。陽性は3段階(+から3+)で判定される。

 胃がんリスクとの関連性を調べた血液の検査項目は、次の三つ。 以上の項目で、グループ分けして胃がんリスクを比較した主な分析結果をまとめると、以下のようになる。
★ピロリ菌に感染していた人(HpAb陽性)の割合
「胃がんになったグループ」…94%
「胃がんにならなかったグループ」…75%。
「ピロリ菌感染者の胃がんリスクは、非感染者の5.1倍」になった。

★隠れ陽性者(HpAb陰性でCagA陽性)を含めるとピロリ菌に感染していた人の割合
「胃がんになったグループ」…99%、「胃がんにならなかったグループ」…94%。「過去に感染したことがある人を含めた感染者の胃がんリスクは、非感染者の10.2倍」となった。

★PG判定で胃がんリスクを比較
 「慢性萎縮性胃炎にかかっている人の胃がんリスクは、かかっていない人の3.8倍」になった。さらに、「もっとも強い慢性萎縮性胃炎(3+)にかかっている人の胃がんリスクは、かかっていない人の4.6倍」になった。

★PG結果にHpAbを組み合わせて胃がんリスクを比較
  どちらも陰性だった人に比べ、「萎縮性胃炎にはかかっていないがピロリ菌に感染している人は4.2倍、「ピロリ菌感染はみられないが萎縮性胃炎にかかっている人」は4.9倍と同レベルのリスクが分かった。
  さらに「萎縮性胃炎にかかっている上にピロリ菌に感染している人は10.1倍」と一気に跳ね上がることが分かった。

●胃がんリクスを高くする生活習慣の改善と定期的な検診の必要性

 このように、今回の研究ではピロリ菌感染及び慢性萎縮性胃炎が、いかに胃がんのリスクを高めるかが、あらためて確認された結果となっている。ただし、日本人の中高年者の大半は実際にピロリ菌感染者だが、もちろん、その全員が胃がんになるわけではない。
 今回の研究の対象となった集団でも、隠れた陽性者を含めたピロリ菌感染者の割合は9割以上にも関わらず、4万人を15年観察し続けて胃がん発生が512人と、発生の頻度は決して高くないことがわかる。
 胃がんの予防について研究班は、「ピロリ菌は、胃がん発生の大きなリスク要因ではあるが、健康な人でも除菌による胃がん予防効果があるかどうか、確実な証拠はまだ揃っていない。まず高塩分の食事や喫煙、野菜・果物不足など、胃がんリスクを高くするような生活習慣を改善し、そのうえで萎縮性胃炎と診断された人は、定期的な胃がん検診を受けることをお勧めします」と話す。(取材・文◎新井 貴)

*この研究について詳細を知りたい方は、研究班のホームページをご覧ください。
(「厚労省研究班による多目的コホート研究:http://epi.ncc.go.jp/jphc/」)

トピックス
日本癌学会学術総会で注目集めたピロリ菌感染を見つける装置
日本癌学会学術総会で注目を
集めた呼気中の
13CO2分析装置
 ピロリ菌を除菌することが胃がんの発生を抑制するーピロリ菌の早期除菌によって、発がんリスクが軽減されることが明らかにされつつありますが、先ごろ横浜市内で開催された日本癌学会学術総会の展示場で、体内のピロリ菌の有無を調べる機器が紹介され注目を集めていました。
ピロリ菌の存在を調べる機器は、ヘリコバクター・ピロリ菌感染診断用剤(尿素製剤)を服用しない前の呼気を採取、その後、同薬剤を空腹時に水100mlで服用し20分後の呼気を採取し、呼気中の尿素を分析することによって、2分で陽性(ピロリ菌が存在)か陰性かを見分ける赤外分光分析装置です。いわば飲酒運転時のアルコール量を測定するような機器ですが、ピロリ菌の存在が確認されれば、適切な治療へ導くことができるとあって、同装置を採用する医療機関が増えているそうです。
がん予防の重要性が指摘されるなか、これまでは十二指腸潰瘍や胃潰瘍の確定診断の際には内視鏡による検査が行われてきましたが、この装置と薬剤を使えば、その必要がなく、また除菌後判定も簡単にできるというメリットが期待できます。
胃がん発生のリスクを抑えられる武器の一つとして、ピロリ菌感染の早期発見と除菌療法に注目しましょう。



胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って

国立がんセンター中央病院の
斉藤大三内視鏡部長

『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

『胃がんとヘリコバクター・ピロリ菌』

第2回

ピロリ菌を検査で早い段階で発見して、
除菌で慢性萎縮性胃炎発症の
可能性を阻止することは
確実に胃がんのリスクを減らすことになる


国立がんセンター中央病院
斉藤大三内視鏡部長


世界各国で行われてきた疫学的研究をもとに、1994年、WHO(世界保健機構)/IARC(国際癌研究機構)は、「ピロリ菌は明らかに胃発がん性を有するもの」と認定した。その後の多くの研究からも、現在では、胃がんの発症にピロリ菌が関与することは、ほぼ間違いないと確実視されている。しかし、ピロリ菌が胃発がんの要因の一つとして、実際にどの程度関与するかなどの詳しいところは、まだ解明にされてない部分も多い。
そこで今回から、2回にわたり国内初のピロリ菌除菌による大規模介入研究(厚生労働省研究班)の主任研究者を務めた国立がんセンター中央病院内視鏡部長の斉藤大三医師に、胃がんとピロリ菌の関係はどこまで解明されているのか、胃がん予防にピロリ菌の除菌はどう有効なのかなどについて、解説してもらう。

明らかになっている前がん状態≠ニの関与

 現在、ピロリ菌が直接原因となり引き起こすことが、はっきりしている代表的な胃疾病には、胃・十二指腸潰瘍と慢性萎縮性胃炎がある。胃・十二指腸潰瘍に対しては、除菌が保険適用となるスタンダードな治療法として行われており、除菌をすれば完治はするし、再発も著しく減少する。しかし、胃がんとピロリ菌の関係を考えた場合、とくに注意しなくてはいけないのは、ほとんど症状もなく進行する慢性萎縮性胃炎の方だ。
「胃がん発生の過程として考えられているのが、まず胃粘膜が何らかの刺激によって薄くなる萎縮性胃炎を起し、次第に胃粘膜が腸のように変化する腸上皮化生という状態を経て、胃がんに進行する。つまりピロリ菌は、萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん状態≠発症させる原因になるのです」
ヘリコバクター・ピロリ(走査電子顕微鏡写真)
兵庫大学・奥田能啓氏提供

 ただピロリ菌に感染しているすべての人が、これらの胃腸病を発症するわけではない。胃・十二指腸潰瘍になる割合は、感染者の約1〜2%。萎縮性胃炎を引き起こす頻度は明らかではないが、ピロリ菌の有無にかかわらず、30歳〜40歳代に、30〜40%ぐらいの割合で萎縮性胃炎が始まっているといわれる。また、さらに進んだ腸上皮化生になっている人の胃がんの発生率は、年間100人に1人との報告もある。


感染期間が長いほど前がん状態を発症しやすい

 それにしても、なぜピロリ菌という同じ原因でも、良性の胃・十二指腸潰瘍と前がん状態と考えられている慢性萎縮性胃炎という二つに分かれるのか。そのポイントは、ピロリ菌の感染時期、感染期間が大きく関係してくる。
「幼児や小児といった早い時期に感染して、感染期間が長いと中高年になって萎縮性胃炎の方にすすみ、胃がんになりやすくなる。ところがもっと遅く、成人になってから感染したような人の場合は、胃・十二指腸潰瘍の方にすすむと考えられる。ただ感染時期というのは、普通は、まだ免疫が発達していない子供の頃が多く、成人してから感染するケースはあまりない」
 ピロリ菌は、便などを通じて経口感染すると考えられており、人の胃のなかだけで繁殖する。日本人は50歳以上の人だと、約半数が感染しているといわれ高率だが、これは子供の頃の衛生環境が悪かった時代的理由がある。現在では、先進国での感染ルートは、感染者である親から子への経口感染することがほとんどといわれている。
現在の日本では20歳以下の感染率は低く、20歳以下の場合、5歳なら5%、10歳なら10%と、年齢が大体、その世代の感染率を表している。


重要なのは小児・若年期からの検査と除菌

 胃がんの発症は、塩分の取りすぎなど、複数の要因が複雑にからみあっていると考えられており、あくまでピロリ菌も、そのリスクの一つにすぎない。しかし、ピロリ菌を検査で早い段階で発見して、除菌で慢性萎縮性胃炎発症の可能性を阻止することは、確実に胃がんのリスクを減らすことになる。
「大切なのは、早め、早めに子供の時期からピロリ菌の感染を調べておいて、きちんと除菌のできる年齢になったら、萎縮性胃炎になる前の若年期のうちに除菌をすることです。いま小児科領域では、早いうちからどうやって調べるか検討がすすめられている」
 除菌は、2種類の抗生物質と胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬を、1日2回、7日間続けて飲み、終了から6〜8週間以降に除菌ができたかどうか判定検査が行われる。薬が効きにくい耐性菌のケースもあり、除菌の成功率は平均して70〜90%だ。
 では、どのような感染者に除菌がすすめられるのか。それは、「何歳の方まで、除菌をすすめるのか」ということも含まれる。


胃の調子が悪い感染者は年齢にかかわらず除菌

「胃の調子が悪い、あるいは胃潰瘍に悩んでいるといった症状のある人は、どんな高齢者でも、年齢にかかわらず除菌を試みた方がよいでしょう。しかし、感染しているだけで、実際に何も症状がない人は、個人的な意見ですが、せいぜい65歳ぐらいまでの方でしょうか」
 高齢社会のいま、感染者が高齢でも、胃がんを発症する可能性は十分に考えられるが、斉藤医師があえて65歳をあげるのには、理由がある。
「除菌をすると、どうしても胃の調子がよくなって食欲が増し、体重が増える。そうすると今度は、高血圧や高コレステロールなどのリスクが増える。リスクはそれほど高いものではないかも知れないが、65歳以上ともなると、普通は生活習慣病の心配を考えなければならない。胃がん発症は、感染者の約1%以下ということも事実だから、胃の症状がなければ、胃がんを恐れ過ぎて、わざわざ生活習慣病のリスクを上げてまで除菌する必要もないでしょう」
(取材・文◎新井 貴)
※次回は、引き続き国立がんセンター中央病院の斉藤大三内視鏡部長に、最終解析を終えたばかりの大規模介入研究で、新たに分かったピロリ菌除菌による胃がん予防の有効性と、欧米では問題視される、除菌による逆流性食道炎との関係についてお聞きします。


トピックス

第一線で治療に当たる内科医の伊藤愼芳氏によって、豊富な臨床成績と最新の研究成果についてまとめられた書『ピロリ菌―日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶』が、話題を集めています。
 同書では、ピロリ菌とは何か、病気との関係、感染の実態、検査法・除菌治療法、感染・予防対策、食事や生活習慣との関係などについて解説。とくに胃・十二指腸の潰瘍及び胃がんが、ピロリ菌とどのような関係があり、どうしたらよいのか、除菌治療による胃がんの予防対策はどの程度示されているのか等々、最新のデータを交えて紹介するとともに、検査結果を生かして人間ドックなどを賢く受ける方法についても記されるなど、ピロリ菌の全容が理解できます。主な内容は、以下のとおりです。新書判、本文212ページ、定価:本体740円+税。発行元は祥伝社。

◆第1章
ピロリとその感染状況(ピロリ菌とは?/細菌についての基礎知識/ピロリ菌発見までの歴史/ピロリ菌の特徴と胃粘膜への傷害作用/ピロリ菌の感染状況)
◆第2章
胃がんはピロリ菌が原因だった(日本では毎年約5万人が胃がんで亡くなっている/普通の健康診断や検診では安心できない/胃がんとピロリ菌の関係/胃がんのリスクを見極める方法/胃がんのリスクを下げる方策)
◆第3章
ピロリ菌が関連する疾患(胃潰瘍・十二指腸潰瘍/胃がんの診断と治療/胃MALTリンパ腫/除菌治療が望ましいその他の病気/ピロリ菌感染と関連の可能性のある病気)
◆第4章
検査方法と除菌療法(あなたはピロリ菌に感染していませんか/胃内視鏡検査と胃レントゲン検査/健康保険が使える場合と使えない場合/各種のピロリ菌検査法/除菌の方法と有効性・成功率・安全性/除菌に失敗したときの治療/除菌治療の注意/ヘリコバクター・ピロリ菌感染の診断/治療のガイドライン)
◆第5章
胃と食事・生活習慣(胃の病気と食事の関係/食品でがん予防が期待できるかなど)


胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って

国立がんセンター中央病院の
斉藤大三内視鏡部長

『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

第3回

『ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌による
胃がんの予防研究の成果』


ピロリ菌の除菌が胃がんの発症を遠ざける
予防として有用であるという事実が証明された


国立がんセンター中央病院
斉藤大三内視鏡部長


10数年かけた「除菌による胃がん予防」の研究が終了

 厚生労働省研究として、斉藤医師が統括医師を務めた国内初のピロリ菌除菌による無作為化大規模介入研究(JITHP)は、1994年に企画され、全国の20〜59歳のピロリ菌感染者750人を対象に行われてきたが、その成果がまもなく正式な論文として発表される予定だ。 
このような「ピロリ菌除菌による胃がん予防」をテーマにした介入研究は、同時期に世界10か国でスタートし、すでに中国、コロンビア、メキシコからは研究データが報告されているが、研究費や参加登録者の不足、除菌の副作用などの諸事情から研究自体がうまく進んでいないものもある。
 ピロリ菌感染者に何も手を加えず、長年にわたり経過を観察するだけの観察研究と異なり、介入研究とは、ピロリ菌感染者を二つの群に分け、片方の群を除菌して経過をみていくもの。斉藤医師は、「胃がんは多くの要因で発症すると考えられているので、胃がんとピロリ菌の関係をさぐるうえでは介入研究の方がより正確なデータが得られる」という。


各国によって大きく異なるピロリ菌と胃がんの発症

 このような大規模な介入研究が日本で行われ、無事に終了したことの意義は大きい。それは、欧米人に比べて日本人に胃がんの発症率が高いのは、ピロリ菌の感染率が高いことが一因と考えられているからだ。
欧米人の感染率は、10〜20%ぐらい。他のアジア人の中国人や韓国人なども、ピロリ菌の感染率、胃がんの発症率ともに日本人とほぼ同じぐらいとみられている。
 ところが、アフリカあるいは東南アジアの一部では、感染率は80%ぐらいと高いが、胃がんの発症率は極めて低率と、日本や中国などの地域とでは、まったく異なる非相関を示すという。
「何が違うかというと、もともと胃炎のタイプが異なるという話がある。またピロリ菌自体のタイプが違ったり、かつ人種も違う、食べ物(環境)も違うということがあり、胃がん発症には、ピロリ菌だけが胃がんの原因と考えるのではなく、この3因子が相互にからみ合っているはずだから、当然、介入研究の結果は、自国のものでなければ意味がない」と斉藤医師は言う。


前がん状態を改善させるピロリ菌の除菌

 JITHPの介入研究では、当初、課題として「胃がん発生頻度の比較検討」もあげられていたが、目標の5000例の参加登録者の集積が思うようにいかず、最終的には、前がん状態≠ナある慢性萎縮性胃炎に焦点をあて、「ピロリ菌除菌よる胃粘膜萎縮の発生および進展の予防」のみに絞られた。
 結果としては、内視鏡で除菌群と非除菌群の胃粘膜萎縮を観察する内視鏡的評価には差がみられなかったが、注目するポイントは除菌群186例、非除菌群205例で行われた組織学的評価だ。胃粘膜組織の変化は、内視鏡で胃の上部、中部、下部の3ヵ所から組織を採って(生検)調べられた。
「普通は、一度、前がん状態になると元に戻らないと思われていたが、除菌をすると割合は低いが戻ることが分かった。萎縮性胃炎で30%ぐらい、腸上皮化生でも15%ぐらいは戻るようだ。低率ではあるが、前がん状態を改善させることが分かったので、除菌が胃がんの発症を遠ざける予防として有用であるという事実が、証明されたわけです」
 またこの研究では、20〜39歳と40歳〜59歳の年齢別での比較もされており、両群間の差は認めらなかった。できるだけ早い若年期に除菌した方が、萎縮性胃炎を防ぐことから、胃がん発生のリスクを低下させることは、前回でも述べている。
しかし、さらにこの研究結果からいえるのは、たとえ40歳以降であっても、感染者は除菌した方が、胃がん予防につながる可能性があるということだ。


胃がん予防のポイントはピロリ菌の除菌と減塩

 ピロリ菌が、胃がん発症の一因として関与(前がん状態の原因)しているとなると、感染率が低い若年者が、そのまま感染せずに中高年になるころには、次第に胃がんの発症率は減っていくのだろうか。早期発見により、胃がん死は減少傾向にあるといわれるが、それでも死亡者数は男性、女性ともに、いろいろな臓器のがんのなかで第2位。依然として、年間20万人が胃がんを発症している。
「ピロリ菌に感染しないように気をつけ、感染していたら早期に除菌をする。普通に考えれば、胃がんになるリスクの一つが減るわけだから、当然減っていくだろう。さらに胃がんの要因と強く考えられている食塩の摂取量も、減らすように気をつければ、減少することは間違いないだろう」

除菌で逆流性食道炎になる可能性は5〜8%

 ただピロリ菌は、胃のなかでアンモニアを作り胃酸を中和するので、ピロリ菌が除菌されると、胸焼けを起こす逆流性食道炎に悩む人が増えるのではないかという話がある。逆流性食道炎であれば、良性なのでまだいいが、この病気をもとに、胃入口の噴門部のがんや食道がんが増えるのではないか、ともいわれている。
「衛生環境がよくなり、欧米で胃がんが減り始めた時期と、日本で減少傾向を始めた時期では20年ぐらい違う。欧米では、近年、食道がんが増加しており、その原因は、ピロリ菌感染が減ったからだと信じ込まれている節もある」
 実はイギリスで、2017年を目標に5万6000人を対象としたピロリ菌除菌の介入研究は、この食道がんが起きるという懸念から実施計画を変更せざるを得なかったという。
「除菌をすると、どれくらいの確率で逆流性食道炎になる可能性があるかというと、最も高い確率を出したのが、欧州の報告で25%ぐらい。日本では、もっとずっと少なく5〜8%ぐらい。また日本では、2000年ぐらいまでのデータを調べてみても、まだそういう所の部位にがんが増えているという傾向はみられていない。この副作用の問題も、ピロリ菌と胃がんの関係と同じで、国や人種が違うので、まだはっきりしたことは分からない。ただ除菌をすすめるうえでは、除菌をすると逆流性食道炎を起こす可能性があることは、きちんと伝えておかなければいけないでしょう」


(取材・文◎新井 貴)




胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
上西紀夫教授
『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

第4回

『ヘリコバクター・ピロリ菌感染による
胃がん発生のプロセス』


東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学
消化管外科 上西紀夫教授


「慢性胃炎の状態が長期間持続することで基本的には“発がん”の引き金になる。だから、ストレス潰瘍や薬を飲んで胃が悪くなったようなことでは、がん化はしない」

 とくに後進国を中心とした傾向として、「胃がんの多いところには、ピロリ菌感染者が多い。ピロリ菌感染が多いと、胃がんが多い」という疫学調査をもとに、1994年、WHO(世界保健機構)は、ピロリ菌が胃がん発生に関与することを認めた。しかし、この時点では、まだ動物実験での証明がされておらず、あくまで臨床的な事実でしかないことから、胃がん研究トップの日本の研究者さえも、当時は、この発表に対して懐疑的な見方をする人が多かった。
 それから4年後。愛知県がんセンター研究所の立松正衞博士と共同で、世界で初めて動物実験での証明を果たしたのが、上西紀夫教授だ。この実験の成功は、現在の「ピロリ菌は胃発がんの一つの因子として密接に関連する」という認識を決定づけるものにした。上西教授に、実験研究で分かったポイントと、ピロリ菌感染による胃がん発生のプロセスについて解説してもらった。


《世界で唯一、初めて証明した動物実験》

 上西教授と立松博士らが、動物実験での証明を果たす以前も、世界でネズミやサルを使ったいくつかの実験が試みられてきた。しかし、もともとネズミにはピロリ菌は感染しにくく、サルも胃炎が起こる程度の成果で、なかなか証明が難しかった。上西教授らが実験で使った動物は、ちょうどその頃に、ピロリ菌に感染しやすいことが分かってきたスナネズミである。

【ポイント1】ピロリ菌は胃がん発生の促進因子として働く

「発がん剤を飲ませて、ある程度がんができる状態を作っておいて、ピロリ菌を感染させると、発がん剤単独よりも明らかに発がん率が高くなる。もう一つは、ピロリ菌感染単独だけでは何もできないが、ピロリ菌に感染させておいて発がん剤を飲ませると、やはりがんができる。
この実験で分かったことは、ピロリ菌の長期の感染は、ある程度は発がん剤の力を増強させるが、基本的には、できたがんを促進させること。ピロリ菌は、イニシエーター(がん化のキッカケを作る物質)としてよりも、プロモーター(促進物質)として働くのです」

【ポイント2】除菌をしたら明らかにがんが減った

「ピロリ菌を感染させて、ある種の発がん剤を飲ませると、意外にがんができないことが分かった。この発がん剤は強く、胃の粘膜を調べたら、ピロリ菌が除菌されていたのです。そこで、除菌でピロリ菌がなくなると、がんが減るのではないかと予測し、今度は抗生物質を使って除菌したグループと、しないグループで比べてみたら、明らかにがんが減ったわけです。この実験で、除菌によってがんが抑えられる可能性があると分かった」

【ポイント3】感染初期に除菌した方が、がんになりにくい

「3番目の実験は、ではいつ除菌をするのが一番いいのか。発がん状態が起こった比較的初期に除菌したグループと、ある程度時間がたったグループ、かなり時間、若い頃に除菌した方が、がんになりにくいことと分かった」


《ピロリ菌による胃がん発生のプロセス》

 ではなぜ、胃がんができるのか。その条件となる最大のポイントは、胃の粘膜が長期間にわたって荒れていること。その原因になるのが、まずピロリ菌であり、次いで塩が重要だ。塩分の取り過ぎは、高血圧の原因にもなることから、日本の胃がんの高発地域と高血圧の高発地域は、ほぼ一致する。
「胃の粘膜が慢性的に荒れている慢性胃炎の状態が非常に長期間持続≠キることは、基本的には、発がんの引き金になる。だから、ストレス潰瘍や薬を飲んで胃が悪くなったようなことでは、がん化はしない」
 一般的に考えられているピロリ菌による胃がん発生のプロセスは、次のようなものだ。

ピロリ菌感染の持続⇒慢性胃炎の持続⇒ピロリ菌感染の持続により「萎縮性胃炎」になり、「腸上皮化生」に進行⇒がんの発生頻度が高くなる

しかし必ずしも、このストーリーだけとは限らないようだ。
「胃がんの発生は難しく、大きく二つに分かれます。胃粘膜が、腸の粘膜の性格に変化(腸上皮化生)する過程からがん化する。もう一つは、腸の性格をもたず、胃の性格のままがん化する。その分かれ目は具体的にはまだ分かってなく、いろいろなファクターがある」
そして、胃の性格のままがん化する胃型の胃がん≠ヘ、どのようにできるのかも、まだ詳しく分かっていない。
「我々の考えとしては、ゆっくり炎症を起すのではなく、急激な強い炎症が起こったために腸の粘膜になる暇がなくて、がん化するのではないかと考えている。その典型なのが、おそらく、スキルスがん(胃壁のなかを広がって進行するタイプ)や未分化型がん(がん細胞の並びが異なり、小さくてもリンパ節転移をする)ではないかと見ている。
 また、一方の腸型の胃がん≠ノついて上西教授は、「腸の粘膜(腸上皮化生)になるから、がんができると思っている人も多いが、それは大きな間違い」と言う。
「腸のなかには、たくさんバイ菌がいるが、腸には、そのような状態でも耐えられる免疫能があり、腸の粘膜になるとバイ菌に強くなれるのです。だから胃の粘膜は、ピロリ菌が長く感染すると、腸の粘膜に変化していきピロリ菌から逃れようとする。腸上皮化生は、ピロリ菌に適応するために、元の性格から化けてしまう適応現象なのです。
実際に、完全な腸の粘膜になるとピロリ菌は棲めない。しかし、うまく腸の粘膜に化けられないと、がん化する。それは、どういう性格の粘膜かと言えば、『大腸の粘膜』に近い方ががん化しやすい。きちんときれいな『小腸の粘膜』に化けられると、ピロリ菌が棲めなくなるので、がん化しにくい。だから、もともと大腸がんは多いが、小腸のがんは非常に珍しい。要するに、腸の上皮になる途中で道がずれてしまって、うまくピロリ菌に適応できなかった粘膜が、がん化するのです」(取材・文◎新井 貴)

次回は、国立国際医療センターの上村直実先生です。



胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
上村直実内視鏡部長
『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

第5回

『ヘリコバクター・ピロリ菌陽性の早期胃がんに対する
内視鏡的切除術(EMR)のケース』


国立国際医療センター 上村直実内視鏡部長

現在、北海道大学を中心にして全国の多施設で約500名を対象とした、ある試験が進められている。ピロリ菌陽性で、早期胃がんの患者さんを内視鏡治療後に、「ピロリ菌を除菌した人と除菌をしていない人に分けて経過観察し、どれくらいの人に新たにがんが見つかるのか比較をするという研究内容だ。今年中には、その試験結果が出る予定だが、そもそもこの試験は、国立国際医療センターで内視鏡部長を務める上村直実医師らが行った研究の追試の試験として始められた。中間報告でも、上村医師らが報告した結果と同様の成績が発表されている。これらの研究で、ピロリ菌と胃がんの間にどのような関係があるのが分かったのか。上村医師に、そのポイントと胃がん予防にとって重要となるピロリ菌検査について聞いた。


世界で初めて『ピロリ菌除菌による胃がん予防』の可能性を示唆

★ 1996年に上村医師らがAGA(米国消化器学会)で発表した研究結果
調査期間:1991年から95年の間に行った平均2年間を経過観察
対象者数:早期胃がんの内視鏡治療を行ったピロリ菌陽性の132名
【結 果】ピロリ菌を除菌した65名のうち、新たながんの発症は0名
ピロリ菌を除菌していない67名のうち、新たながんの発症は6名

★ その後、さらに経過観察を延長してみて行った研究結果
延長期間:2003年までの平均8年間延長した経過観察
【結 果】ピロリ菌を除菌した65名のうち、新たながんの発症は2名
ピロリ菌を除菌していない67名のうち、新たながんの発症は11名

「この結果から、ピロリ菌を除菌すると完全には胃がんの予防はできないが、少なくとも新たな胃がんの発症ないしは発育(速度)を抑制できる可能性があると分析した」

 このようなピロリ菌を除菌して経過をみる介入研究は、それまで前例がなく、上村医師らの『早期胃がんに対するEMR例を対象とした研究報告』が最も早かったため、この成績が発表されると世界中から注目された。
 しかし対象例数が少ない点と、対象の振り分けが無作為割付ではなく、患者の希望による振り分けであったことから、この結果を臨床応用するためには、科学的根拠としては不十分とされた。そして、この研究成績が出てすぐに『ピロリ菌除菌による胃がん予防』をテーマにした介入研究が、世界10か国で同時期にスタートすることとなった。
 北大を中心に進める試験もその一つで、対象数500例、無作為割付という大規模な介入研究により、まもなく上村医師らの研究成績がはっきりと裏付けされることになる。


ピロリ菌感染者は10年で20人に1人が胃がんを発症

 上村医師らの内視鏡を用いた研究には、もう一つ有名な報告がある。ピロリ菌の感染者(陽性者)と非感染者(陰性者)の胃がんの発症を追跡調査した研究だ。2001年の「ニューイングランドジャーナル」(米国の医学専門誌)に発表され、この研究も世界で注目された。

★「ニューイングランドジャーナル」に発表した内視鏡による追跡調査の研究結果
調査期間:1989年から2000年の間の平均7・8年間を内視鏡的に経過観察
対象者数:陽性者1246名、陰性者280名の1526名
【結 果】感染者1246名のうち、胃がんを発症した人は36名(2・9%)
     非感染者280名のうち、胃がんを発症した人は0名

「この研究で分かったのは、生まれつきピロリ菌に感染していない陰性者は、活動性炎症や萎縮性胃炎という胃の加齢による変化が一切ないということです。したがって80歳、90歳になっても胃の粘膜は20歳の状態のまま。だからピロリ菌に感染していない人に胃がんが発症するということは非常にまれなのです。このピロリ菌感染と胃がんの関係は、C型肝炎などの炎症(肝炎)がない肝臓に肝がんがほとんどできないという関係と、すごくよく似ている。
一方、ピロリ菌感染者は年齢と共に次第に胃の粘膜も歳をとっていき、萎縮性胃炎、腸上皮化生へと進行していく。この研究で示された約3%の胃がん発生率というのは非常に高率で、統計学的にみると約10年で20人に1人の割合で胃がんになる人がいるということ。50歳の人にピロリ菌感染が分かった場合、60歳になるまでに20人に1人が胃がんになる可能性があるということです」



非感染者 感染者の内視鏡像 慢性活動性胃炎

ピロリ菌検査は若いうちに異なる2種類以上の方法で

 ピロリ菌の感染は、その人の胃粘膜の一生を決めてしまうことになる。だからピロリ菌検査はとても重要であり、決して見落しがあってはならない。
上村医師らは、内視鏡による追跡調査の研究を行うにあたり、ピロリ菌感染の判定方法に血中抗体法(血液検査)、内視鏡での組織の診断と迅速ウレアーゼ試験という3種類の異なる検査法を用いて本研究の特徴とした。それは、陽性の人を一人でも陰性と間違ってしまう(偽陰性)ことがあっては、長い歳月をかけた研究が無駄になってしまうからだ。
 ピロリ菌検査を受ける際の注意として、上村医師は、「本当は内視鏡検査で組織を採るのが一番いいが、最低でも2つの以上の異なる検査を受けるべき」と忠告する。
 検査方法によっては、検査を受ける人の胃の状態などによって精度の良し悪し(偽陰性や偽陽性)や長所・短所があるのだ。現在、ピロリ菌の感染を判定する検査法には、次の6種類が用いられている。


【内視鏡で組織を採取する検査法】 【内視鏡を使用しない検査法】
1)培養法
2)組織鏡検法(顕微鏡)
3)迅速ウレアーゼ試験
1)血中、尿中抗体法(血液や尿の検査)
2)便中抗原(便の検査)
3)尿素呼気試験(呼気の検査)

「若いといっても50歳未満ですが、若い人であれば血中抗体法でも尿素呼気試験でも偽陰性の確率は非常に少ない。しかし、仮にピロリ菌感染により胃粘膜が歳をとっていて萎縮性胃炎や腸上皮化性に進行していた場合、本当は感染しているのにだんだんピロリ菌が住めなくなるので検査では陰性になってしまう。とくに、すでに胃がんを発症している人や進行胃がんの人には偽陰性が非常に多い。胃粘膜が歳をとってきている人の場合、一つの検査法だけでは5%ぐらいの偽陰性があると考えた方がいい」
ピロリ菌感染者が、できるだけ若いうちに除菌をした方が胃がんのリスクが低くなるのと同様に、ピロリ菌の検査も、できるだけ若い(感染していても胃粘膜の年齢がまだ若い)うちに済ませた方が、それだけ見落としのリスクも低くなるのである。




胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って

『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と除菌による胃がん予防の可能性』

第6回
伊藤愼芳内視鏡センター長

「ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療の臨床現場」
取材協力:四谷メディカルキューブ  伊藤愼芳内視鏡センター長

 昨年、「ピロリ菌―日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶」(祥伝社新書)という本が出版された。著者は、NTT関東病院消化器内科医長やNTT伊豆病院内科部長を経て、2005年のオープン時から「四谷メディカルキューブ」で内視鏡センター長を務める伊藤愼芳医師。内視鏡検査の経験が豊富で、約3000人程度のピロリ菌の除菌治療を行ってきた伊藤医師に、ピロリ菌除菌治療の現場のようすを聞いた。


《安くて当日分かる尿によるピロリ菌抗体検査》

 この約2年間で、当クリニックでピロリ菌の除菌治療を受けた患者さんは700人ほど。その感染者の多くは人間ドックのメニューにある内視鏡検査やピロリ菌抗体検査などによって感染が確認された人たちだ。
「ここの人間ドックを受けられる方の平均年齢は50歳代前半です。ピロリ菌陽性者の割合は全体の44%程度でした。ここに来院する人たちは比較的健康志向の高い方が多いせいか、10%弱がすでに除菌治療を受けており、感染者の割合は全国的な平均よりやや低くなっています」

 このように人間ドックで胃の検査や感染の確認ができていれば、すぐにでも除菌は開始できる。しかし、たとえ感染診断が済んでいない人であっても、当クリニックでは来院当日に検査を行い、治療を開始することも行っている。感染診断の方法はいくつもあるが、簡便で迅速な「尿の抗体検査」をよく用いている。ただし、必要に応じて、吐いた息から調べる「尿素呼気試験」も併用している。また、がんや潰瘍などの病気を正確に診断するため、できるかぎり内視鏡で胃を一度調べることを勧めており、苦痛の少ない内視鏡を実践している。
四谷メディカル尿素呼気試験

【ピロリ菌検査の価格】

◆ 尿または血液による抗体検査……2,500円(尿は当日結果判明、血液は2日後判明)

◆ 尿素呼気試験……7,500円(当日結果判明)

「このほか、便の抗原検査や内視鏡を用いる方法などすべての検査に対応しています。抗体検査だけでも97―98%は正確な診断ができます。また経験が豊富な内視鏡医であれば、胃の内視鏡所見から、約95%程度の正確さで、感染の有無を推測することができます。これらの検査所見が一致していれば、正確な感染診断が可能ですが、不一致の際には、尿素呼気試験や便抗原検査などで確認するなどして、判定結果に誤りのないよう心がけています」

《自分の胃がんリスクを知っておこう》

 胃粘膜の萎縮の可能性がある中高年者層にとって内視鏡検査が大切なのは、がんや他の病変を見つけるだけでなく、粘膜の状態を見ることにより胃がんのリスク評価ができる点に大きな意義がある。
「もしピロリ菌に感染していて、萎縮の程度の強い人は、胃がんのリスクが高いことになります。逆に、ピロリ菌感染もなく、胃粘膜が健全な状態であれば、胃がん検診の対象から外してもいいのではないかという意見があるぐらいです。このような人は無理に毎年、内視鏡検査をしなくても、症状のあるときの受診や数年に一度の検査でよいでしょう。このように、ピロリ菌の感染の有無と正しい内視鏡検査によって、その人に胃がんのリスクがどれだけあるのか、リスク分けすることができるのです」


《約2万円でできるピロリ菌除菌》

 除菌治療は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が確認された人の場合には保険適応になるが、胃がんの予防目的では全額自費となる。治療内容は、2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)を1日朝夕2回、1週間(計14回)服用するだけだ。
「1週間、薬を飲んでいただいた後、4週間以上期間をおいてから除菌できたかどうか判定を行います。ですから、2回目に来ていただくのは約1ヵ月後。除菌の判定は尿素呼気試験を使って行います」


【除菌治療の価格】
◆ 初回除菌の薬代を含む診察料……1万2,000円

◆ 1ヵ月後の除菌判定でかかる料金……尿素呼気試験代7,500円
(当日結果判明)

◆ 再除菌する場合の診察料と薬代……約8,000円

「初回の除菌の成功率は77%。抗生物質のクラリスロマイシンに対する耐性菌がどんどん増えていて、90年代であれば10%程度だった耐性菌が、いま全国的な調査で20―30%と報告されています。薬の組み合わせを代えて2回目の再除菌をした場合の成功率は約90%です。当初100人除菌希望の方がいたとすると、2回までの除菌治療でも不成功の方は、2人ぐらいです。3回目以降になると成功率は低くなり50%程度なので、どの薬が効きそうなのかピロリ菌を培養し、抗生物質の効果を確認する『薬剤感受性試験』を行うようにしています。なお、感染している人が必ずしも胃がんになるわけではないので、除菌治療を断念し、内視鏡などによる胃がん検診を積極的に受けるということで経過観察する場合もあります」

 クラリスロマイシンは上気道炎や呼吸器の感染症など、耳鼻科領域の疾患で使われることが多く、ピロリ菌は構成するアミノ酸を1個変えるだけでこの薬に対して耐性化することができる。以前に1回抗生物質の治療を受けただけでも耐性化している可能性があるという。


《安心できる副作用の程度》

 除菌で使う薬の副作用は全体で30%程度あるが、そのほとんどは軽度の症状だ。
「最も多いのは軟便や下痢といった便通の不調です。またクラリスロマイシンの特徴で服用している期間、少し口の中が苦く感じることがあります。それから薬剤アレルギーで薬疹が出る人が1%程度。重篤な副作用は0・1%程度ですが、出血性腸炎といって出血が混じるような下痢で腹痛、高熱が出ることや重症な薬疹、白血球減少などが報告されています。このような場合は治療を中止してもらいます。我々のところでは、副作用で治療を中断した人は全体で1%以下でした」

 薬剤の服用はあまり種類が増えると、組み合わせによっては肝機能異常を起す可能性も考えられる。生活習慣病の薬を常用している人の中でも、高血圧や糖尿病などの薬は中断することはできないが、高脂血症薬や尿酸抑制薬など1週間程度止めてもあまりリスクを伴わないような薬の場合は除菌治療の間少し控えてもらうこともあるという。それ以外は、普段の通りの食事内容とほどほどの飲酒量であれば、とくに除菌期間中の生活の制限はない。


四谷メディカルキューブ外観
「医療法人社団あんしん会
   四谷メディカルキューブ」

〒102―0084 東京都千代田区二番町7―7
TEL 03―3261―0401 FAX 03―3261―0402
公式HP:http://www.mcube.jp/
(人間ドックの内容や伊藤医師監修の
ピロリ菌除菌についての解説を掲載)


四谷メディカル・エントランス




胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
間部克裕医師
『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

第7回

「胃がん多発県が取り組む
ピロリ菌除菌治療の実態調査」


取材協力:
間部克裕医師
(山形県立中央病院内科・医療情報部副部長)

「除菌しても依然、リスクが高いことには変わりはないので、
除菌後は必ず毎年、内視鏡検査を受けてもらいたい」


全国でも胃がん死亡率が高い山形県では、医師たちのネットワークにより全県下83施設で登録数4千人を超えるピロリ菌除菌に関する大規模な調査・研究活動が行われている。ピロリ菌陽性の消化性潰瘍に対する除菌療法が保険適用となった2000年11月から始まったこの調査は、昨年、欧州の消化器病学会(UEGW)や日本胃癌学会などでサブ解析が発表され、今年12月には最終解析が行われる予定だ。
 この調査開始に合わせて、ピロリ菌除菌療法の正しい情報の普及などを目的に設立されたのが「山形県臨床ヘリコバクター・ピロリ研究会」。その代表世話人を務める間部克裕医師に、サブ解析でわかったピロリ菌除菌による胃がん抑制効果、医療現場での問題点などについて話を聞いた。



潰瘍患者さんを対象とした前向きな研究

全国でも胃がん死亡率が高い山形県では、医師たちのネットワークにより全県下83施設で登録数4千人を超えるピロリ菌除菌に関する大規模な調査・研究活動が行われている。ピロリ菌陽性の消化性潰瘍に対する除菌療法が保険適用となった2000年11月から始まったこの調査は、昨年、欧州の消化器病学会(UEGW)や日本胃癌学会などでサブ解析が発表され、今年12月には最終解析が行われる予定だ。
 この調査開始に合わせて、ピロリ菌除菌療法の正しい情報の普及などを目的に設立されたのが「山形県臨床ヘリコバクター・ピロリ研究会」。その代表世話人を務める間部克裕医師に、サブ解析でわかったピロリ菌除菌による胃がん抑制効果、医療現場での問題点などについて話を聞いた。
【調査対象の主な内容】
対象 ピロリ菌陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者
登録機関 2000年11月〜2003年12月
登録症例数 4,203例
除菌群 3,848例(91.6%)
非除菌群  355例( 8.4%)
性別 男性3,021例、女性1,182例
平均年齢 約53歳(13歳〜91歳)

 【調査のポイント】
○ 消化性潰瘍患者に対する保険適用範囲内での除菌治療(検査、薬剤の組み合わせなど)
○ 病院、医院合わせ83施設の全患者に除菌療法を統一した書式で説明
○ 除菌治療と従来の潰瘍治療(非除菌)のどちらを選ぶかは患者が自由に選択
○ 除菌判定は原則として、迅速ウレアーゼ試験(内視鏡)と尿素呼気試験の組み合わせ
○ 登録前、除菌判定時、その後1年ごとに内視鏡検査を行い、経過を登録

間部医師は、山形県で行われている研究と他の研究との大きな違いをこう説明する。
「ピロリ菌の除菌で胃がんが減るという研究は、これまでもいくつも行われてきましたが、その多くは、除菌をした人を後から追跡調査したものです。しかし私たちの研究は、保険適用に合わせて、実際に多施設の医療現場で患者さんに開始されるピロリ菌除菌療法を、はじめから登録症例として経過観察していくという前向きなところが大きな特徴です。そのことによって、当初想定していたことが、実際にはどうなるのか検証でき、また医療現場で引き起こされる新たな問題点などがリアルタイムで次々と分かっていきました」

9割以上が除菌治療を選択

 ピロリ菌の除菌療法が保険適用になったばかりの当時は、患者さんはもちろんのこと、医療従事者でさえも専門医を除いては、まだ除菌に関する情報があまり知られていない状況だった。そこで、まず研究会が作成したのは、「ピロリ菌とは?」からはじまり、「除菌のメリットとデメリット」など、除菌に対する正しい情報を示した文書だった。
「患者さんへの説明は、全施設で統一した文書を使い行いました。その結果、90%以上の人が除菌治療を選択したのです。当初、除菌療法はそう普及しないのではないかという風潮もありましたが、きちんと情報を伝えさせすれば、ほとんどの患者さんが除菌するということが証明される結果となったのです」

除菌で胃がんの危険性が3分の1に

 除菌を行っても、なかには失敗例も当然でてくる。したがって登録者は、「除菌成功群」「除菌失敗群」「非除菌群」の3群に大きく分けられる。その後、1年ごとの内視鏡を使った経過観察で分かった胃がん発生率は、大方予想どおりだ。
「全国で行われている研究結果と同じように、この研究でもピロリ菌の除菌に成功すると、胃がんになる危険性が三分の一に減ることが分かりました。このように、実際の医療現場のデータとして数字が示せたことで、患者さんにも早期除菌をすすめることができるのです」
ピロリ菌の電子顕微鏡写真1

非感染 正常胃粘膜と粘液

H.pylori 感染胃粘膜と粘液

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃がんとは直接関係はない。しかし、これらの消化性潰瘍の原因となるピロリ菌が胃のなかにいることは、それだけ胃がんの発症リスクを高くする。

「ピロリ菌がいる人のなかで、最も胃がんになりやすい人は、胃がんの内視鏡治療を受けた人です。治療後に、他の場所に胃癌がでてくる確率が高い。その次が、慢性胃炎や胃潰瘍のような胃の炎症が胃のうえの方まで進んでしまい、胃酸分泌が低下したグループです。十二指腸潰瘍の人は、胃酸分泌がまだ高いレベルに保たれているので、胃がんのリスクは比較的低い。
 実は同じ潰瘍でも、胃潰瘍の人は除菌に成功しても失敗しても、胃がんのリスクにあまり差がありませんでした。ですから、まだ胃炎が進行せず十二指腸潰瘍ぐらいでおさまっている若い年代のうちに早めに除菌した方が、より胃がんになりにくいということです」


問題はフォローアップ率の低下

 さらにこの研究では、貴重なデータがあげられている。それは実際の医療現場で、いま起きている問題点といえる除菌後の内視鏡検査の継続率(経過観察率)。この実態に対しても、間部医師は予想していたという。


【経過観察率の比較】
1年後 2年後 3年後 4年後
除菌群 34.7% 29.3% 24.3% 23.4%
非除菌群 50.6% 37.2% 34.2% 34.3%

除菌後は毎年受けよう内視鏡検査

 このような実態をふまえると、この研究によって最終的に導きだされる答えには、「ピロリ菌の除菌で胃がんが減る」とは、そう簡単にいえない結果がでる可能性も十分考えられる。最終解析では、抜け落ちている約7割の経過観察も可能な限り行い、医療現場で実際に行われているピロリ菌除菌治療後の、より正確な胃がん発症率、胃がん抑制効果が明らかにされることになる。
 ピロリ菌の除菌治療について、まだ正しく理解されていない重要な点を、間部医師はこのように指摘し注意をうながす。
「多くの人は、最近、ピロリ菌に感染して胃潰瘍になり、除菌するともう大丈夫と安心してしまう。そうではなくて、ピロリ菌は慢性感染症でC型肝炎と同じようなもの。陽性者が20歳や30歳になったころには、C型肝炎でいえば肝硬変になっている状態。除菌しても依然、リスクが高いことには変わりはないので、除菌後は必ず毎年、内視鏡検査を受けてもらいたい」

★ 「山形県臨床ヘリコバクター・ピロリ研究会」公式ホームページ

  http://www.yamagata-pylori.jp/



胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
青山伸郎院長
『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と
除菌による胃がん予防の可能性』

第8回

「ピロリ菌感染の有無を起点にした
診断治療の時代」

これからの胃がんを含めた上部消化管疾患の
診断治療には、ピロリ菌感染の有無を起点として
「陽性者」「除菌者」「陰性者」の三つの
視点からみた対応が重要に


取材協力:
青山伸郎院長
(青山内科クリニック:胃大腸内視鏡/IBDセンター)

2007年春、兵庫県JR神戸駅前、阪急・阪神・山陽電鉄と連結する高速神戸駅上(神戸高速鉄道)に最新の医療機器を備えた内視鏡・IBDを中心とする消化器内科クリニックがオープンした。院長は、神戸大学医学部附属病院で助教授・内視鏡部部長を長らく務めてきた青山伸郎医師。これまで直接行ってきた内視鏡検査は上部消化管(食道・胃・十二指腸)3万例、下部(大腸)1万2千例、胆膵系は2千例を超え、休診日には顧問施設でESD(切開剥離法)など最新の治療を継続しているという内視鏡の第一人者に、若年層の早期のピロリ菌検査が、胃がんを含む今後の上部消化管疾患の診断治療にいかに重要な意味をもつのか話を聞いた。
ピロリ菌陰性時代に突入
ピロリ菌 年代グラフ

「これからは自分がピロリ菌の陽性なのか、陰性なのか早いうちに知ることが極めて重要になってくるでしょう」
青山医師がこう強調するのも、ピロリ菌の感染率は現在の50歳以上と以下では、大きくかけ離れているからだ。グラフは、1974年代から10年間隔で年齢別感染率を示したものだが、約10年前の94年のグラフをみると、40歳以上と以下では感染率の大きな差がはっきりと分かる。このことから言えるのは、現在の50歳以下の人たちに、これから多くみられるようになってくる上部消化管疾患の様変わりだという。
「50歳以下では、陰性者が陽性者を上回り、ピロリ菌陰性時代に突入する。これから問題となってくる上部消化管疾患は、ピロリ菌陰性関連疾患に移行しつつあります。ですから医療現場での診断治療は、ピロリ菌感染の有無を起点としてすすめるべき時代に入ったといえるでしょう。また胃がんに関して言えば、ピロリ菌陰性、ピロリ菌除菌例における“胃がんリスクの認識”が重要になります」


除菌しても残る胃がんリスク

 これまで連載のなかで取り上げてきたが、ここで陰性の人と除菌した人の「胃がんリスク」のポイントをあらためて挙げておきたい。
【ピロリ菌陰性者】
ピロリ菌を厳密に判定すると、生来、感染していない人からは、噴門部以外の胃がんの発症は極めて稀(ゼロであるとの報告もある。神戸大学で調べた際には0.2%)である。ただし萎縮から腸上皮化生を伴うと、ピロリ菌が自然に消失(既感染)しピロリ菌陰性に混在、最も胃がんリスクの高いグループであるので注意が必要である。

【ピロリ菌除菌者】
胃がんのリスク増大は除菌の段階で止まり、最終的に3分の1程度に減少すると考えられるが、決して陰性の状態に戻るわけではないので必ず定期的な内視鏡検査を受けるべきである。


強い胃酸による病気が増加

 では、ピロリ菌感染率の低下とともに、上部消化管の病気にはどのようなものが増え、また自分が陽性か陰性によってどのような病気のリスクが高くなるのか。青山医師が指摘する上部消化管疾患の移行を簡単にまとめると、次のようになる。
【移行する上部消化管(食道・胃・十二指腸)の病気】

★ピロリ菌関連疾患(減少)
○ 胃・十二指腸潰瘍
○ 噴門部(胃の入口付近)以外の胃がん(悪性腫瘍)
○ 胃腺腫(良性腫瘍)
○ マルトリンパ腫(リンパ節に似た胃粘膜組織に発生する腫瘍)
○ 過形成性ポリープ(萎縮粘膜に好発)


★ピロリ菌非関連疾患(増加)
○ 逆流性食道炎
○ バレット食道(元来、扁平上皮である食道粘膜が胃粘膜同様腺上皮組織になる)⇒食道腺がんに移行するリスクを有する
○ 胃底腺ポリープ(粘膜の萎縮がなく酸の分泌が盛んだと胃底部から発生)中年女性に多発し、がん化は零でピロリ陰性の指標
「ピロリ菌陰性の人は、胃酸の分泌が強い傾向があり、逆流性食道炎などの胃酸に関係する病気に罹りやすくなります。食生活の欧米化とともに、『胃がん・潰瘍時代』から『逆流性食道炎時代』に入ったといえるでしょう」
 ここで注意しなくてはいけないのは、ピロリ菌の除菌治療をした人だ。除菌により胃酸の分泌が活発になるので、胃がんのリスクを残しながらも、加えて陰性者と同じように逆流性食道炎などの病気にも注意してみていく必要がでてくる。
 このような理由から、これからの胃がんを含めた上部消化管疾患の診断治療には、ピロリ菌感染の有無を起点として「陽性者」「除菌者」「陰性者」の三つの視点からみた対応が重要になってくるのである。


 今回、取材させてもらった「青山内科クリニック」のような経験豊富で専門性の高いクリニックが、地域医療の充実のため、わたしたちの身近な場所に開設されることは、とても心強い。そこでオープンしたばかりの院内を、青山院長に案内してもらったので、写真で紹介しよう。

入口
「JR神戸駅」前のビル5Fにある
クリニックの入口


受付
ロビーの右奥にある受付カウンター。
この日は院長みずから出迎えてくれた


診察室
プライバシーが守られるように1室づつが個室になっている診察室。医師と患者様の椅子は同じもので
院長のポリシーがうかがわれる

内視鏡室
NBI搭載、経鼻対応内視鏡など最新の鏡機器を取りそろえている。内視鏡台は頭部分、足部分、上下、3方向可動で、移動も容易
ロビー
広くてゆったりくつろげるロビー。クラッシックBGMが院内全体に流れていて、とても医療施設とは思えない
ほどの明るい雰囲気
クリニックが発行している診察券。当院では院長が通勤に利用している阪急電鉄(あずき色)に近い
“えんじ”をイメージカラーにしている


尿素呼気試験
 ピロリ菌検査や除菌判定に使用される
尿素呼気試験測定機器


回復室は4室。十分な鎮静の場合は、内視鏡台ごと移動し回復チェアにする。軽い鎮静の場合はソファータイプを利用でき、個別にライトも点灯できるなど、随所にプライヴァシーに対する心配りが見られる。
更衣室と洗面所
更衣室と洗面所は、それぞれ男女別

洗面所には温水ウォシュレット、鏡台が備えられている。

★ 青山内科クリニック:胃大腸内視鏡/IBDセンター
(内科/消化器科)


〒650―0015 神戸市中央区多聞通3−3−9
TEL 078―366―6810   FAX 078―366―6811
公式HP : http://www.aoyama-clinic.com/

○ 消化性潰瘍に対するピロリ菌除菌(保険診療)
○ 消化性潰瘍を有しないピロリ菌除菌(自由診療)
○ 二次除菌などについても保険診療適応を遵守してピロリ菌に関するすべてに対応



胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
榊 信廣副院長
第9回「薬剤耐性菌に対する
二次除菌法が保険適用に」
東京都保健医療公社

第9回


これからの胃がんを含めた上部消化管疾患の
診断治療には、ピロリ菌感染の有無を起点として
「陽性者」「除菌者」「陰性者」の三つの
視点からみた対応が重要に


荏原病院・内科 榊 信廣副院長

《榊先生プロフィール》

榊 信廣(さかき・のぶひろ)

1972年3月 山口大学医学部卒業
1982年4月 山口大学医学部 第1内科 講師
1985年7月 東京都立駒込病院 内科 医長
1996年7月 同院 内視鏡科 部長
2002年7月 東京都立広尾病院 副院長
2005年4月 東京都立墨東病院 副院長
2007年6月 東京都保健医療公社 荏原病院 副院長

薬剤耐性化したピロリ菌でも、高い成功率で除菌できる二次除菌の薬剤の組み合わせがまもなく保険適用となる。この保険適用の実現に向けて、日本へリコバクター学会の社会保険委員長として厚労省や製薬メーカーに働きかけ尽力してきたのが、榊 信廣医師(東京都保健医療公社 荏原病院・内科 副院長)。日本でピロリ菌の研究がはじまった当初から、その治療と胃がん予防に関する研究を20年以上にわたり続け、その間には、自らも胃がんの発症を経験した。そんな榊医師に、ピロリ菌除菌の大切さと、この度、新たに保険適用となる二次除菌の内容について聞いた。

胃がんになって実感した“除菌の大切さ”


 榊医師が、胃がんを発症したのは3年前、56歳のときだ。ピロリ菌の研究者でありながら、感染していることが分かっていても、除菌をしていなかったという。
「自分自身が、そんなにがんのリスクが高いと思っていなくて、まだ余裕があると思っていたんです。それに普段、『胃・十二指腸潰瘍でないと原則ダメですよ』と言って、保険診療にのっとって患者さんを診てきた立場の人間としては、自分だけが、胃がん予防のための除菌をするのは抜け駆けをするようで、後ろめたい気持ちがあったんです。まあ、油断していたというのが本当のところです」
 そうは言っても、背に腹は替えられない。50代後半にさしかかり、そろそろ自分も胃がん予防の除菌をやろうと思い、除菌治療前に内視鏡検査を受けたが、時すでに遅し…。
「初期のがんだったのですが、病変が4〜5pと非常に大きかったので、内視鏡で取ったり、胃の一部を残すというわけにもいかなかったから、結局は全摘出しました」
「なぜ、除菌をしておかなかったのか」
朝夕1日2回分が1パックに
包装されていて服用しやすい
スタンダードな除菌薬
「ランサップ400」
今になってから、つくづく思うという榊医師。胃がん予防のための除菌は、自己負担であっても陽性者は早めに除菌することをすすめる。
「ヘリコバクター学会の社会保険委員会の責任者として、国には胃がん予防のための除菌を保険適用にしてもらうよう要望書は出しています。しかし、日本人の半数は陽性者がいるわけですから、膨大にかかる医療費を考えたら、それがおいそれと通るわけでもないでしょう。それでもプラス、マイナスを考えた場合に、ピロリ菌の除菌は早期にした方がいいということは客観的にもハッキリと言えます」


二次除菌成功率が20%から90%前後にアップ

 現在、保険診療で認められているピロリ菌除菌の薬は、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(3種類のうちどれか)と抗生物質2種類(アモキシシリン+クラリスロマイシン)の組み合わせのみ。保険適用となった2000年の段階において、公表されたこの組み合わせでの除菌成功率は90%だった。しかし、その後、成功率は年々低下していき、現在の除菌成功率は70〜80%。除菌率低下の理由はピロリ菌の薬剤に対する耐性化だ。
「除菌失敗のほとんどの例が、クラリスロマイシンに対するピロリ菌の耐性化です。クラリスロマイシンは、マクロライド系の抗生物質の一つで、マクロライド系抗生物質は、呼吸器系の感染症や性感染症の治療でよく使われている薬です。これらの疾患での使用量が増えるのに伴って、ピロリ菌の耐性化が増えていると考えられています」
 ある薬剤に対する耐性化が原因で、ピロリ菌除菌が失敗していた場合、同じ薬の組み合わせでの繰り返しでは当然、2度目も成功する確率は低い。しかし、これまで保険診療で認められていた二次除菌の内容は、「初回除菌と同じ組み合わせで1回までに限る」というもの。そのため保険診療で行ってきた二次除菌の成功率は20%ほど(最大50%)。ピロリ菌を研究する専門医の多くは、初回除菌失敗者に対してあまり期待できない保険診療での二次除菌はすすめず、現実的には自己負担で違う薬の組み合わせによる二次除菌を推奨してきたというのが、これまでのいきさつだ。
「学会が推奨している二次除菌の組み合わせは、初回除菌の組み合わせのクラリスロマイシンをテトラサイクリン系のメトロニダゾールに替えただけです。朝夕食後に2回に分けて1週間服用する方法も同じ。この処方で成功率は90%前後です」

 メトロニダゾールを使った組み合わせでのピロリ菌の除菌率は高く、初回除菌での保険適用も検討されてもよさそうなものだが、学会で推奨するのは二次除菌に限定したものだ。
「二次除菌に限定されている最も大きな理由は、トリコモナス症や赤痢アメーバー症などの、非常に特殊な病気の特効薬として使われていることです。他に代わりの薬がないので、除菌目的であまり多用をすると、今度はこちらの疾患での耐性化の懸念があるのです」
 成功率の高い二次除菌の保険診療が、どうにか認められることになったが、それでも除菌が保険適用となるのは従来通り胃・十二指腸潰瘍に限られる。「胃がん予防のためのピロリ菌除菌の重要性」を呼びかける学会としては、これからもピロリ菌の研究や行政の働きかけを活発に行っていくという。
「まず、きちんと治療できる態勢作りをしようということで、とにかく最初は、効率のいい二次除菌を保険診療で行えるように全力を注いできました。これが実現することになり、次は、胃がん予防のための除菌を保険診療で認めてもらえるように全力を尽くしていきたいと思います」

<榊 信廣副院長の連絡先>

〒145−0065
東京都大田区東雪谷4−5−10
    荏原病院
電話:03−5734−8000(代)




胃がん予防キャンペーン
 連載―話題を追って
村上智彦医師
最終回「ピロリ菌検査・除菌によって
地域に根づいた予防医療の大切さ」


第10回

取材協力:
医療法人財団夕張希望の杜「夕張医療センター」
村上智彦医師(理事長・センター長)


《村上智彦医師プロフィール》

1961年、北海道枝幸町(旧歌登町)生まれ。
金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。
00年、旧北海道瀬棚町に作られた町立診療所の所長に就任し、「ピロリ菌検査の推進」など予防医療と地域包括ケアを実践。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長、夕張医療センター長に就任。

財政破綻した北海道夕張市で地域医療を継続させるために、今年4月「夕張医療センター」がオープンした。約45億円もの累積赤字を出して廃止となった市立総合病院の施設をそのまま使用した「公設民営」の診療所だが、その運営のため医療法人設立に手を上げたのが村上智彦医師。町村合併前の旧北海道瀬棚町の町立診療所では、予防医療を重視した地域包括ケアに力を入れてきた地域医療のエキスパートだ。そこで『胃がん予防キャンペーン』シリーズ連載記事の締めくくりとして、村上医師が瀬棚町で成功した「ピロリ菌検査・除菌を含めた予防医療の重要性」と「地域医療再生による夕張の再生」という理念について聞いた。
ピロリ菌検査は教材ツール

 道南の日本海に面する瀬棚町(3町合併で現在は「せたな町」)は、村上医師が着任したときの人口は2800人ほどで65歳以上の高齢化率は27%。一人当たりの老人医療費が全国ワースト1位ということで、当時、大きな課題としてあったのは、「医療費をいかに削減して、町民の健康を守るか」だった。そこで力を入れて取り組んだのが、「ピロリ菌の検査の推進」や「肺炎球菌のワクチン接種の推進」など、といった予防医療だ。
医療センターの概観
 ピロリ菌の尿中抗体検査に関しては、住民検診や職場検診、小学校以上を対象とした学校内科検診にも取り入れ、これまでに住民の半数以上が抗体検査を終え、そのうち300人ぐらいが除菌を済ませている(子供の除菌対象は13歳以上)。
「ピロリ菌検査は、予防医療を住民に広く理解してもらうためにも非常にいいツールなのです。子供に対しても、ピロリ菌検査で『自分が陽性か陰性か』を知らせてあげておくことは、早くから予防医療の意識を身につけさせる意味でも、一つの教材になります(もちろん判定の報告は他の人に分からないように行う)。また親には、自分の子供は将来、胃がんになりやすいタイプなので13歳になったら除菌をするか、もしくは成人になったら酒、タバコ、ストレスなどの発症因子となる習慣をもたないような育て方をしてくださいと伝えることができる。まさにリスクマネジメントの教材としてピッタリなのです」
 ピロリ菌による胃がんリスクの啓蒙、予防接種の公費負担(肺炎を防げば25万円節約)など、村上医師らの地道な保険予防活動によって一人当たり140万円だった老人医療費(北海道の平均99万円)を70万円台に半減させることに成功した。
地域住民に根づいた予防医療

 村上医師が、予防医療の大切さを住民たちに広く浸透させるために、とくにエネルギーを注いだのは情報提供だ。診療所に赴任してからというもの、健康講話には各地へ出かけ、講演会、町の広報紙、職員や保健師などにも教育し積極的に動いてもらい、(統計的に)病院に来ることのない四分の三の住民に対して、検診や予防医療の重要性を知ってもらうための活動を1年がかりで行ったという。
診療を待つ住民
「胃がんは目に見えない病気で、『発症したら病院に行くしかない』のではなくて、実は『除菌や食生活の改善などで予防できる病気なんだ』ということに気付いてもらうことが、何よりも大切なことです。こちらが働きかければ、住民は必ず関心をもってくれます。そして一度気付いてもらえれば、予防医療の大切さはその地域の住民に根づいていくものなのです」
 2年前の町村合併により3町が合併したが、旧瀬棚町地区の予防医療に対する意識はいまでも高く、一人当たりの老人医療費は抑制されたまま移行しているという。
高齢者の健康が再生のカギ

 旧瀬棚町のような、充実した地域包括ケアを実現させるためには、地域、行政、医療機関の連携が不可欠だ。しかし、いまの夕張市に予防接種の公費負担など、地域医療に対して連携を求められるものはなにもない。財政破綻による影響で、本来であれば、これから税収を支えなければいけない若年層の流出も止らず、人口1万2000人の高齢化率は、全国の市で最も高く40%を超える。しかも60歳以上となると半数以上にものぼる。そんな状況下で、診療所の運営を任された村上医師の理念は、「地域医療再生による夕張の再生」。
介護老人保健施設
「この先も高齢者が増える一方なので、これまでのように、普通に病気を探して治療をするだけの医療が続いていても、医療費が増えパンクすることは目に見えている。そういう意味では、市立総合病院の閉鎖は地域医療再生のいい機会になったといえるでしょう。お金も病院もないのだから、病気にならないための努力(予防医療)や体が動かせるようになるために積極的にリハビリをして、高齢者が少しでも健康になって自分たちで働いて税収を上げていくしか夕張の再生はないのです」
 そんな村上医師の考えは、住民にも着実に浸透しつつあり、いまではピロリ菌検査(定期的な内視鏡検査が必要か選別ができる)や予防接種なども自費で普通に受ける人も増え、この半年で予防医療への関心は、すいぶん高まってきているという。
 また、予防医療の柱の一つとして村上医師がオープン時から始めているのが、在宅療養の患者を定期的に回る「訪問診療」だ。7月から常勤医師が2名加わったこともあり、いまでは20数名の在宅患者を週2回、4〜5人ずつ診ている。

夕張に日本の将来が見える

 2030年には、全国の自治体の3割が高齢化率40%を超えるといわれている。あと十数年もすれば、いまの夕張市のような問題を抱える自治体が、次々と増えていくことは必至だ。それを考えると、村上医師が行っている夕張での取り組みは、「日本の医療再生による日本の再生」のパイロット・スタディともいえる。
 ただ村上医師は、「現在の『病気を探して治す教育』しか受けていない医師や病院の発想では、人を本当に健康にすることはできない」と危惧する。
「本来の医師の仕事は、医師法の第一条(※)に書かれていますが、多くの医師が病院で医療をやること、研究をすることが仕事だと勝手に解釈してしまっている。それにWHOの定義などを見ても分かるように、『健康』というのは『病気でないこと』ではありません」
*「医師法第一条」医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。また、『健康でいられるための努力』は、医療保険を受ける利用者側の『義務』ともいう。
シンボルマーク
(医療法人財団夕張希望の社)
「保険制度は、すべて相互扶助の精神で成り立っています。これには義務と権利があって、たとえば介護保険であれば保険料を納めること、『寝たきりにならないように努力(リハビリ)』をすることが義務で、これを果たしてはじめて介護保険が受けられる権利が生じます。医療保険も同じで、保険料を納めて、『病気にならない努力(予防医療)』をしている人に保険医療を受ける権利があるのです。これをきちんと理解していなければ、どんな保険制度であってもいつかは崩壊してしまう」
 北海道夕張市に、将来の日本の姿が写し出されているかのようである。

★ 医療法人財団 夕張希望の杜「夕張医療センター」★

〒068−0402
北海道夕張市社光6番地
TEL(0123)52−4339 / FAX (0123)52−2617
ホームページhttp://www.kibounomori.jp

《診療所》
■診療科
総合診療科(全日)
整形外科(火曜日)
眼科(火曜)
歯科(全日)
■ベッド数19床
介護老人保健施設「夕張」
■短期入所療養介護事業
■入所定員40名
(個室2、2人部屋9、4人部屋5)

編集部からのおしらせ

2006年12月からスタートした「胃がん予防キャンペーン」の話題を追ってシリーズ『ヘリコバクター・ピロリ菌の早期発見と除菌による胃がん予防の可能性』は、今回、紹介しました『ピロリ菌検査・除菌によって地域に根づいた予防医療の大切さ」(取材協力:医療法人財団夕張希望の杜「夕張医療センター」 村上智彦医師(理事長・センター長)で最終回です。本シリーズは、終わりますが、ヘリコ・バクターピロリ菌の早期発見・早期除菌による胃がん予防の研究、診療は、これからも続きます。ご愛読ありがとうございました。



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