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『週刊がん もっといい日』編集部(株式会社日本医療情報出版)
TEL.03-5688-7816
FAX.03-5688-7803




週刊がん もっといい日
2009年Vol.177
10月9日更新


Vol.177号の目次 『週刊がん もっといい日』編集部 山本武道からのメッセージ

@クローズアップ
Medical Research Information Center (MRIC) メルマガから
(2009年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行)
『看護師が見たアメリカの疼痛緩和の現場』(下) 
東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム
社会連携研究部門 看護師・保健師 児玉有子


Aクローズアップ
『漢方を活用した日本型医療の創生』
慶應義塾大学医学部漢方医学センターセンター長 渡辺賢治
(2009年10月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行)


Bセミナー・イベントのお知らせ

09年10月2日更新内容 全記事はこちら

埼玉県初の『リレー・フォー・ライフ』を支えた
NPO法人とまり木 の主宰者、北澤幸雄さんから『とまり木通信』が届きました

 がんとの闘病生活を続けている北澤幸雄さんが主宰するNPO法人とまり木 が発行する『とまり木通信』(平成21年10月 5日付け)が、『週刊がん もっといい日』編集に届きました。
 同通信には、9月12日、13日に、さいたま市緑区の農業者トレーニングセンター緑の広場で開催された埼玉県初の『リレー・フォー・ライフ』のことが記されていました。
 埼玉県草加市在住の北沢さんは、昨年2月に準備委員会を立ち上げ、9月に横浜での リレ・ーフォー・ライフに、埼玉チームとして参加し1年以上の準備を重ね今回の初開催となったものです。
「12日は朝から時々小雨が降っていましたが、開会式には雨もやみ清水さいたま市長ほかの挨拶後、がん患者によるサバイバーズウォークから始まりました。夜間は雨の中1000本のろうそくを灯したルミナリエが一晩中会場を照らす中、ボランティアの協力もあり多くの方が夜間越えをしました。
 参加チーム34で参加者も1000名を超えました。埼玉開催実現の想いが実行委員の皆さんと多くの方のご協力で実現でき、素晴らしいイベントとなりました。心からお礼申し上げます。 とまり木チームも総勢37名の参加者があり寄付金総額は144,361円でチーム優勝できました。
 来年も一人も欠けることのないよう元気な顔でお会いできることを楽しみにしています。
また今回参加できなかった方も来年はぜひ一緒に参加しましょう」
 北澤さんは今なお、がんと向き合いながら、NPO法人の運営、活動の毎日です。『週刊がん もっといい日』を愛読していただいている皆さま、北澤さんの活動に応援ください。
 連絡先は、TEL&FAX:048−936−8601 へ。
 さて今週もまた 皆さまにとって「もっといい日」でありますように・・・。

『週刊がん もっといい日』編集部 山本武道

☆☆☆「週刊がん もっといい日」VOL.177☆☆☆


クローズアップ

Medical Research Information Center (MRIC) メルマガから
(2009年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行)

『看護師が見たアメリカの疼痛緩和の現場』(下) 

東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム
社会連携研究部門 看護師・保健師 児玉有子


仙谷大臣とオレンジバルーン

 仙谷由人行政刷新担当大臣の記者会見が、しばしばテレビで放映されています。後ろに控えている秘書官の胸元に、オレンジ色風船のピンバッチが着いているのに気づかれた方はおられるでしょうか。実はあれ、緩和ケア推進のシンボルマークなのです。
 仙谷大臣は、がん患者です。2002年に国立がんセンターで胃がんの手術を受けました。それ以降、医療問題に関心を持ち、2006年のがん対策基本法成立に尽力されました。
 がん対策推進基本計画では、10年以内にがん患者およびその家族の苦痛を軽減することと、療養生活の質の向上の目標として掲げられました。あれから3年、果たしてどれだけ進んだのでしょうか。
 ドラッグ・ラグに対する国民の認知度は上がり、さまざまな解決策が試行錯誤されています。ところが、同じような状況にある医療機器のデバイスラグについては、まだまだ十分な議論がなされているとは言えません。


体内埋め込み型ポンプは、難治性疼痛患者への福音

 アメリカでは18年前からがん性疼痛に対して、埋め込み型ポンプを用いた疼痛治療が行われています。体内埋め込み型ポンプから出たチューブの先が第12胸髄腔に留置され、髄腔内に直接モルヒネを注入します。心臓ペースメーカーと埋め込み型ポートを足したような存在と考えれば理解しやすいでしょう。
 ポンプの埋め込み手術にかかる時間は1時間程度。アメリカでは、外来で手術しています。ポンプを体内に埋め込むことで、患者の日常生活の邪魔にならず、かつ一定の量の薬剤を持続的に注入できます。
 モルヒネを用いる場合、副作用対策に注意が必要です。例えば、モルヒネを服用する患者の一部は、便秘、眠気、吐き気に悩まされます。
 一方、埋め込み型ポンプを用いれば、このような副作用は緩和されます。便秘や吐き気は1/3から半分程度に減ります。それは、髄腔投与は、経口投与の300分の1の量のモルヒネで済むため、全身性への影響が少ないからです。
 例えば、今回の見学で紹介されたナンシーさんは、モルヒネの経口投与だけでは、痛みをコントロールできず、泣きながら過ごしていましたが、埋め込み手術後は普通の生活を送ることができるようになりました。

体内埋め込み型ポンプはデバイスラグの典型例

 アメリカにくらべ7%程しか麻薬が処方量されていない日本では、まだまだがん患者の疼痛対策は十分とは言えません。このような器械が導入できれば、痛みが軽減され行動範囲が広がるでしょう。
 体内埋め込み型ポンプは、国内での適応が海外に比べて大きく遅れているというデバイスラグの例です。体内埋め込み型製品そのものは、2005年に脊髄損傷や脳性麻痺による重症の痙縮に対して承認を得、保険診療で行われていますが、がんの疼痛対策への仕様は適応外です。
 アメリカでは1991年に承認され、臨床応用されているのに、我が国では治験の要否を含め、適応拡大にいたる道筋ははっきりしていません。
 また、既に承認されている薬剤ではありますが、適応の拡大に当たって、それぞれについてどのような追加試験やデータが必要かについては検討が進んでいません。患者さんや医療現場のニーズに迅速に応えられるような手当てがなされることが期待されます。


埋め込み型ポンプ導入の基準

 埋め込み型ポンプの導入は、モルヒネの経口投与や注射では十分な疼痛緩和が得らない人が対象になります。多くは進行がんの患者です。
 モルヒネの内服量が1日200 mgを超えることが予測されれば、埋め込み型ポンプの使用が検討されます。この規準は、欧州と米国を舞台とした多施設共同研究の結果に基づくもので、2000年代初頭にJournal of Clinical Oncology や Annals of Oncologyなどの権威ある医学誌で発表されました。
 ただ、臨床現場では、この規準は杓子定規に当てはめられていません。患者さんの状態にあわせて、微調整されています。例えば、予後不良で強い痛みが生じやすい膵臓がん患者では、診断後早期に埋め込みます。
 また、主治医が、痛みが問題になりそうだと考えた場合には、規準にとらわれず、早期に埋め込むこともあります。彼らは、「耐え難い痛みがある患者すべてが適応患者である」ということを強調していたのが印象に残りました。


メディケイドでも認められる医療行為です

では、埋め込んでいる人の経済状態はどうでしょうか。実は、埋め込み型ポンプはメディケイドでも支払いが認められている医療行為です。もちろん大半のプライベート保険ではカバーされており、アメリカでは誰でもが受けることができる普通の医療になりつつあります。
 もちろん、そんなに安い器械ではありませんが、米国では埋め込み型とそうでない硬膜外・対外式ポンプを比較した場合、疼痛管理を始めてから3ヶ月後にはその費用はむしろ埋め込み型のほうが安価であるという研究結果もあります。


これまでに経験した副作用やトラブル

 これまでに埋め込んだ人のうち10%弱の人では、期待する効果が得られませんでした。その最大の理由は、創傷治癒が遅延し、埋め込みを維持できないことです。
 医療機器の埋め込みに付きものの、感染症の頻度は1%程度です。これまでに、機械の誤作動で過剰投与になったり、機械が故障したというトラブルはないようですが、患者さんが自らハンマーでたたき壊したという例があったようです。
 このようなアクシデントを経験することで、アメリカの医療界はノウハウを蓄積しています。医療機器の活用には、患者・医療者のノウハウの蓄積が必須です。日本がアメリカに追いつくには、経験の蓄積が必要で膨大な時間がかかりそうです。

埋め込み型ポンプ普及の障壁

 体内埋め込み型ポンプを普及する上での障壁は、専門外の医師の無理解でした。特にがんの専門医は、なかなか共感してくれなかったようです。ところが、この医療行為が普及するには、がん専門医から疼痛専門医に、早期に患者が紹介されることが必要不可欠です。
 疼痛チームがまずしたことは、各診療科が集まっている医局で腫瘍医との非公式なディスカッションを積み重ねた事だそうです。最初は非公式だったディスカッションは段々と格上げされ、今では定期的なカンファランスも実施されていますが、疼痛専門医は「何よりも非公式でのディスカッションを繰り返すことで信頼関係を構築できたことが良かった」と振り返っていました。
 さらに、実際にこの器械を用いて疼痛が緩和された患者さんとがん専門医との対面を促し、がん専門医にもその効果を目で見てもらったことも有効だったそうです。今では、疼痛専門医とがん専門医の間に信頼関係ができ、患者さんは早い段階で疼痛緩和チームの診察をうけることになっているそうです。異職種の連携にはコミュニケーションが重要。洋の東西問わず、状況は変わりません。

 
自宅で過ごし、訪問看護師やかかりつけ医がフォローしています

 埋め込み型ポンプを使用している患者の多くは、病院から2時間程度かかるところに住んでいます。手術当日と翌日は、病院近くのホテルで泊まり、それ以降は2週間から1ヶ月の間隔で通院しています。
 埋め込み患者の大部分は自宅で過ごし、かかりつけ医や訪問看護師によりケアされます。導入後に急な痛みを生じたり、器械がアラーム音を発しているときには、まず訪問看護師が対応します。
 訪問看護師は、自分の受け持ち患者が器械を埋め込むとなれば、病院とメーカーから操作法などのレクチャーを受けます。訪問看護師では対応困難な場合には、メーカーが雇用している看護師が患者宅に出向き対応します。


医師とメーカーの関係

 医師とメーカーの関係は微妙です。完全に関係が途絶すれば医療事故が増えて、患者さんに不利益がでます。一方、癒着すれば不正の温床になりかねません。
 先日開かれた中医協では、メーカーの担当者と医師個人の関わりについて議論され、技術指導は許可しているが、それ以外の接触は一切排除しているという病院の例が紹介されていました。雑談も許さないようでは、円満なコミュニケーションなど出来るはずがなく、厚労省と御用学者の「机上の空論」に過ぎません。
私が訪問した病院では、両者の関係はもっと自然でした。1ヶ月間に20例以上の導入を行い、精力的に疼痛対策を進めている医師は、メーカーの担当者のことをとても頼りにしていました。「ここ数年、ずっと一緒にいるようだ。」と。
 癒着を望む人はいません。しかし、医師とメーカーが患者さんの治療に関わる多くの情報を共有することは非常に意味がある事であり、また個人的な信頼関係があるからこそネガティブな情報交換もスムーズにできます。
 

さいごに

 今回、出会いもっとも親身にかつ有益な情報を提供してくれたのは盆栽を愛する40歳の医師でした。「がん性疼痛をなくすことは自分のパッションだ」と何度も繰り返し、「今日から一緒に取り組もう。」と握手をしました。
 我が国でも、オレンジバルーンの効果により、緩和ケアの知識が普及し多くのがん患者さんに緩和ケアが提供される日はそう遠くない将来おとずれるでしょう。従来の緩和ケアだけでは消えない痛みの治療に、医療機器の力は欠かせません。日本における痛みからの開放はデバイスラグの解消と共に訪れるという思いを強くしました。



クローズアップ

『漢方を活用した日本型医療の創生』

慶應義塾大学医学部漢方医学センターセンター長 渡辺賢治

(2009年10月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行)

●はじめに

 昨今のインフルエンザ騒動を見ていて、漢方を専門とする医師として誠に歯がゆい思いで見ている。大規模臨床研究ではないにしても、麻黄湯(まおうとう)がタミフルと同等の効果という結果が複数出ている。現場でそれを知っている医師は多く、現に各メーカーの在庫が底をつきかけ、生産が間に合わない状況にあると聞く。

 MRIC臨時 vol 271で木村知先生が書かれているように、「インフルバブル」の中で、どうして漢方薬の存在が見えてこないのであろうか。筆者はこうした事態が来ることを想定して、漢方を取り巻く環境のインフラ整備を急ぐことを提言してきたが、残念ながら準備不足の状態で、このような事態を迎えてしまったことを遺憾に思う。

 MRIC臨時 vol 189 「統合医療の確立ならびに推進をうたった民主党マニフェスト」で、民主党のマニフェストに漢方を含む統合医療が盛り込まれていることについて述べさせていただいた。いよいよ民主党政権が発足し、具体的にどのような政策が取られるのか期待されるが、こうしたインフルエンザ騒動を見ていると、早急に漢方の基盤整備をして、日本型医療の創生を急ぐ必要があると考え、本稿を記す。


●漢方の抱えるジレンマ 原材料(生薬)の供給

 麻黄湯がインフルエンザ治療として、何故表に出てこないのであろうか。一番の理由は、原材料の供給である。麻黄湯の構成生薬は麻黄(まおう)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)、桂枝(けいし)である。このうち麻黄、甘草は中国の北部の野生品に頼っており、収穫量に限度がある。また、現地の人たちは生活のために乱獲するが、計画栽培をしないで掘りっぱなしのため、掘った後が砂漠化し、大きな環境問題となっている。そのため中国政府は、1999年以降麻黄・甘草の輸出を規制している。

 それに加えて中国の経済発展と元高基調は、生薬原料の価格を押し上げている。さらに下記に述べるような世界的な伝統医学見直しの時期に来ており、欧米での需要が急速に伸びているために、限られた生薬資源の配分バランスが崩れつつある。

 このような生薬の不安定な供給状況で、投機的資本の介入により、価格が高騰する危険性もはらんでいる。2002年にSARSが流行した時に、タミフル(シキミ酸)の原材料である八角の価格が10倍に高騰したと聞く。

 もしも新型インフルエンザに漢方薬が良いということになり、原価が高騰したら日本の漢方メーカーは大きな打撃を被ることになる。ただでさえ資源の問題、砂漠化の問題で、中国は甘草、麻黄の輸出を問題視している。甘草は漢方薬の7割に使われている大事な生薬であり、理不尽な価格高騰が起こった場合、わが国の漢方製剤の生産そのものに与える影響は大である。


●漢方の抱えるジレンマ 薬価

 では国内栽培を振興すればいい、ということになるが、その足かせとなっているのが、薬価である。麻黄湯の1日薬価は55円である。木村先生が述べておられる「インフルエンザが疑われても検査で陰性」の患者に仮に3日分処方しても160円である。

 発熱する前に危ないと思った段階で麻黄湯もしくは葛根湯を服薬すると、大抵2,3服で済んでしまう。これには教育も必要であるが、そもそも熱が出て症状が出始めた時がインフルエンザの始まりではない。ウイルスにさらされている機会は発病の何倍もあって、潜伏期間の間、免疫力が優れば発症せず、ウイルスの増殖が優っていれば症状が出るわけである。潜伏期間の間にも何らかの体のサインのあることが多く、それを見逃さなければ麻黄湯、葛根湯を数回服用すればそれで済んでしまう。

 ちなみに葛根湯は1日薬価が73円である。タミフル1日分は618円であり、通常5日分処方される。漢方薬を身近に使用することで、医療費削減は十分可能である。

 さらに漢方の良い点は、ウイルスそのものをターゲットにしていないので、耐性ウイルスを作ることはない。また、生体防御機構を高めているので、不顕性感染を作ることもない。

 薬価は、漢方薬といえども西洋薬と同じルールで改訂されている。西洋の新薬の場合、開発費に罹る費用を計算に入れての初期薬価であり、2年毎の改訂で下がっていくことは理解できる。しかしながら漢方薬の場合、生薬の価格で変動するために、一律に下がる薬価ルールが適用されるはずもない。事実中国からの輸入価格は上がっているにも関わらず薬価が下がっている。このため、薬価に見合う生薬しか輸入できず、医療の質そのものが危うくなっている。

 漢方製薬メーカーや生薬メーカーは、原価と薬価が逆転するいわゆる「逆ザヤ品」を抱えながら全体で利益が出るように調整している。企業でありながら、売れば売るほど赤字という品を売っているわけである。
「では明日から赤字品目は撤退します」、といったら日本の医療が成り立たなくなる。メーカーは日本の医療を守るために、大変な犠牲を払っているのである。


●急ぐべきは漢方の基盤整備 生薬の国内自給率向上

 江戸時代までは生薬の栽培は盛んであったが、近年では農村の労働力の欠如、薬価の低下に伴う生薬価格の下落から栽培農家は激減した。その結果生薬の自給率はどんどん低下し、現在では15%にしか過ぎない。食の自給率よりさらに悪い。

 現在の農業技術を持ってすれば、わが国で栽培できない生薬はほとんどないと聞く。問題は価格が見合うか、ということになる。価格の問題で、わが国の生薬栽培を海外に移していった経緯は食と同じである。生薬の場合、中国への依存が大きいため、中国の経済発展に伴い、原価は上がる一方である。

 今後わが国の伝統医学である漢方を発展させ、国民の健康に資すためには、生薬の安定確保は必須事項である。さらに、農薬・重金属などの心配のない安全性の高い生薬が求められている。この点において、トレーサビリティーの担保されている生薬を生産することで、国内需要をまかなうだけでなく、将来的には信頼される生薬を世界に提供することも可能である。

 国内産業の振興の意味でも食とともに、生薬の自給率を上げるべく対策を立て、雇用促進につなげる。そのためにも、生薬の薬価基準のルールを見直し、産業振興に見合う薬価を制定するルール作りが必要である。


●生薬を原材料とした日本発の創薬産業の育成

 そうはいっても、生薬資源には限りがある。特にここ20年来の欧米における生薬ブームにより、中国の生薬主要輸出国は日本・韓国から欧米にシフトしつつある。世界的生薬需要の高まりは、国内産業をいくら振興しても追い付かない可能性もあり、生薬資源がいずれ希少品となることを想定しておかなくてはならない。その前に価格の高騰があり、いずれにしても良質の生薬の安定確保が困難になる事態も予測される。

 分子標的薬の時代に入ったといえ、現在でも生薬由来の創薬は数多く存在する。八角からのタミフル(シキミ酸)の例をまたずとも、イチイの樹皮成分からのタキソール、ニチニチソウからのビンクリスチンなど生薬由来の抗がん剤も沢山ある。このように、生薬をシーズとする創薬は、まだまだ多くの可能性を秘めている。

 こうした生薬由来の創薬は、日本がかつてアジアの中心であり、多くの優れた学生が日本に留学に来ては自国に戻って活躍している。しかし最近では日本の生薬研究が衰退し、アジアの中心は香港、上海に移っている。米国では既に香港と組んだ医薬品開発が始まっている。

 わが国発の生薬からの創薬という産業育成は、付随する経済効果のみならず、限られた生薬資源を守る意味でも重要な意味を持つと考えられる。


●次世代を担う人材育成

 以上にも増して重要なのが、次世代を担う人材育成である。漢方の教育は2001年の医学教育モデルコアカリキュラムに入ったお陰で全国80の医学部・医科大学で行われている。しかしながら、教える側の教員不足であり、次世代を担う人材が十分に育っているとは言えない。

 基本的に漢方は全人的・継続的医療であり、総合医のマインドがなくては務まらない。現状の医師教育の中で、総合医教育が不十分であることもあいまって、漢方医が十分に育っていない。ここで言う「漢方医」というのは単に漢方薬を処方する医師という意味ではなく、漢方の特質を十分に理解した医師、ということである。

 全人的・継続的医療であることに加え、漢方のもう一つ重要な特質は「未病を治す」ことである。何か症状があった場合、検査に異常が出なくても、漢方医学的に問題があれば早期に漢方治療の介入が必要になる。こうした漢方の特質を生かすことで、予防医療に重きを置く医療政策への転換を図る。

 人材育成に関しては大学が中心であるが、総合医を育成するためには地域病院、診療所と連携した包括的人材育成のプログラムが必要である。こうした基盤整備を早急に行い、漢方医学の次世代を担う人材を養成する。


●国際化時代に備える

 世界では、プライマリケアに伝統医学を用いているのが40億人というWHOの推測もある。実際にWHOでは伝統医学の振興を推進しており、医療情報の基礎となる国際疾病分類の次回改訂(ICD-11)に漢方を含む東アジア伝統医学を盛り込もうという計画が進んでいる。このような世界的動向に対して、わが国の医師はほとんど無関心である。

 自国のいいものを見ようとしないのは、日本人の悪いところである。米国の国立衛生研究所(NIH)は年間300億円の研究費でいわゆる統合医療の研究・推進を行っている。

 筆者も、ハーバード大学と組んでNIHの助成金をもらった経験がある。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が骨髄の血球系細胞を増やす効果において、幹細胞増殖因子に比べても優れているということで、ハーバード大学の知財センターから共同研究のための契約書200ページを送りつけられたことがある。残念ながら、当時、知財に関してはわが国の整備も進んでおらず、米国の法律事務所に頼むと1千万円はかかるといわれ、共同研究を断念したことがある。

 この時に思い知ったことは、米国が伝統医学に関心を抱くのは金の成る木と考えているからだということであった。わが国の医療である漢方が海外に知財を持っていかれてしまうのでは、何とも情けない。

 冗談だが、「十全大補湯」という名前だと日本の医師はやぼったいと思って使わないが、アメリカのメガファーマが「JTX10」などという名称で売り出すと皆が有難がって使い出すのではないか、という話がある。

 自国を大事にしない同様の事例は、過去にも枚挙に暇がない。調べた範囲で驚いたことは、万年筆も江戸時代の日本の発明であったことである。その後米国のウォーターマンが特許を取得し、日本人は自国で発明したものに対して特許料を払うことになる。日本はもっと自国のいいものを見つけ、自信を取り戻すべきではなかろうか。


●さいごに

 最先端医療を身につけたわが国は、米国型医療の恩恵を受けつつ、その後追いをすることなく、わが国独自の医療文化を作るべきである。世界の伝統医学を見渡すと、多くの国では、西洋医学の医師ライセンスと伝統医学の医師ライセンスが異なり、その融合が必ずしもうまく行っていない。わが国は一つの医師ライセンスで、最先端医療も伝統医学である漢方も両方できる。本稿では触れないが、さらに言えば鍼灸も行うことができる。日本の鍼灸は他国のものと比しても非常に技術が高い精緻なものであり、世界中からニーズがあるが、これにも日本は答えられていない。
 こうした伝統と最先端を融合させた「日本型医療」を創生し、新たな医療文化を形成する時期に来ているように感じる次第である。




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